[コラム] 今春の神奈川公立高校入試の平均点について ~神奈川総合(国際文化)の合否への影響について考える~

今春(2021年度)の神奈川県公立高校入試の、教科別の合格者平均点が発表されています。

英語 国語 数学 理科 社会
2021年度 54.6 65.7 58.2 50.1 72.6

 

一番平均点が高かった社会と、低かった理科の差は22.5点。ステップ生の自己採点の平均点(不合格者も含む)を見ても、21.7点の大差がついています。

ところで、神奈川総合高校の国際文化コースの学力検査は4教科受験です。英数国が必須で、理科または社会を選択します(英語は重点化され2倍に)。
今春入試の場合、結果的に理科と社会の平均点に大きな差がついたため、理科を選択するか、社会を選択するかによって差が生まれたのではないかという疑問が湧きました。もちろん選択するのは得意なほうの教科ですから、問題が難しくても悪い点数にはなりにくいとも考えられます。

しかし、現実には国際文化コースを受けたステップ生の各教科の平均点(開示得点;不合格者含む)は次のようになっていました。

必須 選択
英語 国語 数学 理科 社会
90.9 82.3 73.5 77.0 93.8

 

理科と社会の差は20点まではいきませんが、16.8点とかなりの差になっています。つまり、「4番目の科目」だけを見た場合、社会を選択した生徒のほうが理科選択者よりも16.8点高くなったということです。
一方、合否判定では、理科と社会の点数はまったく同等に扱われ、どちらの科目を選択したかは考慮されません。

そこでシミュレーションをしてみました。
仮に以下のような点数の生徒がいた場合、入試判定に使用されるS1値とS2値がどうなるかを示します。
※S1値は第一次選考(定員の90%まで)、S2値は第二次選考(定員の残り10%)を選抜する際に用いられます。
なお、面接点及び特色検査(グループ討論)は、ステップからの受験者のほとんどが80点でしたので、仮に80点として計算しています。

(シミュレーション) 生徒Aの得点

内申 学力検査 面接 特色 S1 S2 合否
英語 国語 数学 理科
117 90 79 75 79 80 80 993.0 980.8 不合格

 

理科を選択したこの生徒の場合、この点数では残念ながら今春入試では不合格となります。

しかし、もし社会を選択していた場合、どうなるでしょうか。点数はステップ生の平均点の94点として計算してみます。
すると以下のようになり、ステップ生の今春のデータを見る限り、これは合格ラインを上回ります。

内申 学力検査 面接 特色 S1 S2 合否
英語 国語 数学 社会
117 90 79 75 94 80 80 1008.0 1004.8 合格

 

当然、この逆のパターン(もし理科を選択していたら不合格に…というパターン)も考えられ、理社の選択によって合否が分かれるケースが想定されます。
上記のシミュレーションは架空の生徒ですが、実際にステップ生の状況を調べてみると、理社選択で合否が逆転(不合格が合格に、合格が不合格に)した可能性のある生徒が複数確認できました。

つまり、理社の試験の難易度に大きな差ができたために、国際文化コースではその選択によって合否に影響が出た可能性が高いと言えます。
県内の公立高校のうち、理科と社会を選択する形の高校は、神奈川総合高校の国際文化コースと舞台芸術科だけで、また問題の難易度は予想できないこととはいえ、残念と言わざるを得ません。

できることなら、大学入学共通テストのように得点調整を行い、教科による差が多少緩和されればいいのに、と思ってしまいます。ただ、現実には得点調整に関することは定められていません。
念のため、神奈川県教育委員会に「得点調整」についてお聞きしてみましたが、予想通り「得点調整については規定されていないため行っていない」とのお返事でした。今後検討するかについては、「一意見としてうかがっておきます」とのことでした。

ただ、一番の問題は、得点調整云々ではなく、教科によってこれだけ大きな平均点の差が生じていることです。
ステップも模試を作成していますが、その難易度の調整はなかなか大変で、入試問題を作成するのも非常に大変なことなのは想像に難くありません。また、特に今年は新型コロナウイルスの学習への影響も考慮された可能性があります。

ただ、昨年時点ですでに社会は易化傾向、理科は難化傾向にありました。
その状況で、社会がさらに易しく、理科が難化するという結果になり、差が大きく拡大したのが今年の入試でした。
▼直近3年の合格者平均点(県教委発表)

英語 国語 数学 理科 社会
2021年度 54.6 65.7 58.2 50.1 72.6
2020年度 49.4 69.1 55.7 55.9 58.2
2019年度 49.8 59.1 50.3 61.3 42.5

 

では、県が目指す入試問題の難易度はどの程度のものなのでしょうか。
一般社団法人かながわ民間教育協会が2020年7月に県教委へインタビューなさっています。その中で、「社会の平均点が42.5→ 58.2のような急激な変化は想定内なのか」という協会からの質問に対し、岡野教育監は以下のように述べられています。

いつも申し上げているように、50点から60点の間におさまるような平均点を目指して作っている。この春(編注:2020年度入試)は『前年、平均が低かった社会は上げなければいけない』ということで作った。その結果がこの平均点のアップになった。

引用:一般社団法人かながわ民間教育協会ホームページ
「『令和3年度神奈川県公立高校入試について』の神奈川県教育委員会との質疑応答」より

つまり平均点が5~6割になるように作問されているはずです。その意味では理科はギリギリその範囲に入っているとみることができますが、社会は大幅に逸脱していると言えるでしょう。

入試は「選抜」ですので、ある程度「差」がつかないと合否判断の材料としては不適格になります。
例えば、今年の社会について、横浜翠嵐高校を受験したステップ生の平均点(開示得点)は、合格者が98.4点、不合格者が97.7点でした。ほとんど点差がついていない状況であり、社会は合否判断の材料になりえなかったと言えます。つまり、学力検査では「5教科」の点数が合否判断の資料になるべきところ、「実質4教科」になっていたということです。
もちろん社会が不得意な生徒にはプラスになったと言えますが、逆に得意な生徒はアドバンテージを得ることができなかったということになります。どの教科にも不得意な生徒、得意な生徒はいますから、難しすぎたり簡単すぎたりする教科があると、適切な合否判断にならなくなる危険性があります。

今年の入試では、社会の平均点の(他教科と比して)異常ともいえる高さにより、アンバランスさが顕著に出たと言えるでしょう。
この入試問題を解いたのは県全体で約4万5千人(2月15日の全日制高校の受験者数)。これだけ多くの受験生に影響を与えることになります。入試の作問にあたっては検討に検討を重ねられているだろうと思いますが、より精度の高い入試問題作成に、今まで以上に取り組んでいただきたいものです。