演者と観客が揃ってこそ (井下兆志)

カストロ議長が亡くなった。キューバの英雄であるが、キューバといえば今年、今月、忘れられないだろう出会いをした。
それはローリング・ストーンズの映画作品「ハバナ・ムーン」である。今年、アメリカとキューバが『歴史的和解』を果たし、その地で「西側」のロックバンドとして始めてストーンズがコンサート(しかも無料)を開催したのだ。その模様を映画化したものがこれ。
発売以来すでに4回ほど見ているが、これはもうストーンズ映画の最高傑作であると断言したい。
その理由はただひとつ。主役が観客であることなのだ。この映画にはハイライトがいくつかあり、当然2時間踊り跳ねるミック、見つめあうキースとチャーリー…は勿論だが、メンバーと同じくらいの比率で観客が大写しになる。ストーンズのみならず、ライブ映画・DVDといったものでこれは特異といえよう。しかし、私は最も感動したのはこの点であって、演者と観客が揃ってこそ一つの「ライブ」…「生」という意味でのライブは成り立つと見せつけられた気がしたのだ。そして50余年に渡り、ポップスの世界で酸いも甘いも経験しつくしてきたローリング・ストーンズというバンドの持つ重みと、長らく社会主義という体制の下にあるキューバという国の持つ重み、その2つが奇跡のように結びついて、あの空間が成り立っていると感じられた。
フィールドは違えど、僕の目指すべき授業はこういう「ライブ」 なのだと痛切に感じている。